私は、クリスマスが苦手だ。
正確に言うと、「雰囲気」が苦手なのかもしれない。街も家族も幸せムードで、私が「苦手」と思うことすら許されないような空気が、少し息苦しい。
この時期が苦手になったのは、父との思い出が大きい。
私が24歳の頃、父は私と継母にお金を無心し、継母は顔や体に痣を作ることが増えた。中高校生の弟と妹は部活やバイトで家にほとんど寄り付かなかった。
私は留学の夢を抱き、朝から晩までバイトを掛け持ちしていたが、ほとんどは父に渡す分に消えた。
そしてクリスマスは、父に貸したお金の返済を催促する日だった。額は10万を超えていた。返せる目処がないのは分かっている。
案の定、「もうちょい待ってくれ」と言われた。
私は声をうわずらせながらも、「私、留学したいねん。今のままではお金が貯まらへん。遅くなっても、返してほしい。」と穏やかに訴える。本当ならもう、海外で過ごしているはずだった。
しかし父は机を叩き、「お前の夢なんかどうでもええ!」と怒鳴る。
口論になり、彼の最後の捨て台詞は、「お前みたいなくさった娘、いらんわ」だった。
父が出ていき、深夜のリビングに静けさが戻った。目の前のケーキの甘さが、頭の中で繰り返される父の言葉によって苦みに変わる。
子供の頃は、クリスマスが大好きだった。
弟や妹とサンタや雪だるま、トナカイのオーナメントをツリーに吊るし、てっぺんの星を誰が飾るかで喧嘩もした。父はツリーの周りをイルミネーションでライトアップした。弟も妹も私も、目を輝かせてその時間を楽しんだ。
そのツリーとイルミネーションが、昔と変わらずそこにあるのを見ていると、涙が止まらなくなった。
結局、お金は1円も戻ってこなかった。謝ることもない父に、お金を貸すこともやめた。わずかに貯まった分と旦那さんのおかげで、私はカナダに来ることができた。
カナダではクリスマスは家族のイベントだ。
街はツリーやイルミネーションで溢れ、子どもたちは目を輝かせる。高齢の人は買い物カートに食べ物やプレゼントを詰めている。
その光景を目にするたび、ケーキの苦みと実家のイルミネーションを思い出す。「私は愛されなかった子」と思い知らされるのも辛い。
実家とは絶縁しているし、旦那さんとの生活や趣味を楽しんでいるはずなのに、この時期は幸せそうな家族が眩しすぎて、心が落ち込む。そのせいで、包丁で指を切りそうになったり、半日何もできないほど呆然と過ごしたり、悪い思い込みが激しくなったりする。
それに、罪悪感もある。
旦那さんや彼の家族は私を大事にしてくれるのに、こんなモヤモヤした気持ちを抱く自分がいけないと思えてしまう。だけど、無理に「楽しもう」としても心は折れそうになる。
きっと、ゴキブリを見て反射的に嫌な顔をしてしまうのと同じで、クリスマスが近づくと、私の体は自然に身構えてしまうんだろうな。
それでも、「クリスマスの雰囲気が苦手」と文字にすることで、少しだけ折り合いをつけられる気がする。
イベントを楽しみにしてる人もいるし、私みたいに肩身が狭くなる人もいる。誰かを攻撃するわけでも、周囲の幸せを否定するわけでもない。
ただ、自分の気持ちを認めていきたい。
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