江戸時代の介抱人(介護士)を通して、人と人との関わりを描く短編集。そんな風に聞くと、重たい物語を想像するかもしれない。この本を読み進めると、心に残ったのは辛さだけではなかった。
※ネタバレなし
簡単なあらすじ
江戸時代を舞台に、介抱人のお咲を通して親子や人の関わりを描く短編集。
介護の現場だけでなく、人間関係の微妙なすれ違いや歩み寄りを丁寧に描いている。介抱する側も、される側も、どうすれば幸せにいられるかを考える物語だった。
作品の特徴
・連作短編集
・介護の様子も看取るシーンを淡々と描いているため、読みやすかった
・大きな出来事は起こらないけれど、登場人物たちの心の機微が描かれている
個人的メモ
・江戸時代の知らない言葉がいっぱいで、調べながら読んだ
・読了まで1週間かかった
・いわた書店の選書本
この本のテーマ
「最期のその日まで何度、共に笑えるかを心得る。介抱する側も、される側も、笑いこそが何よりの薬。」
とはいえ、この物語は介護を美化するものではない。
色んな家族とお年寄りを見たお咲だからこそ、介護が辛さだけで終わってしまえば、看取られる側も、看取る側も後悔が残るのではないかと気づいている。
介護はみんなでやるもの
介護は一人で抱え込むものではなく、みんなで関わるものだと思った。
病気で亡くなった実母や義母の姿を思い浮かべながら読んで、強く実感した。介護は、労力も精神力も体力も削られる。大事な人が弱っていく姿に向き合うのは辛いし、病気になった本人も弱いところを見られたくないと感じるかもしれない。
でも、人を頼らないということは、自分と家族を追い詰めてしまう。
この小説は、介護される側もする側も、笑いや他人の手を借りることで穏やかに過ごせることを示してくれる。
重いテーマでありながらも、登場人物が生き生きとしている。介護される人より、その家族のままならない心や弱さがしっかり描かれている。だからこそ、現実感がある。
一方で、「介護」というのは、本人をケアするだけでない。家族が連携し、行政、医療関係の人や友人などを頼りにすることだ。そうすることで、介護する側の心に少し余裕が生まれ、本人も安心して過ごせる環境につながるのだと改めて感じた。
心に残った言葉
「親子だからって、放っといても気持ちが通じ合うはずだと思うのは大間違いさ。」
「死ぬときはみんな、独りです。たった独りでその恐ろしさに耐えるんです。それだけはいかに孝行な子がいても、誰も代わってあげられない。だからそばについて手を握り、言葉を交わします。精一杯、笑って、大丈夫だよと声をかける。」
「ぽっくりも、ゆっくりも、立派な往生だと思える方が、追い詰められないかもしれない。気が楽になる。」
さいご
介護は誰にとっても避けられないテーマだ。『銀の猫』は、その現実を突きつけるのではなく、人と人が支え合う姿を優しく描き出している。
どんな別れでも、後悔は残るかもしれない。だからこそ、今できることを考えたい。
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