『楽園のカンヴァス』感想:感動は恋に似ている

2025/09/03

読書

印象に残ったのは、名作に込められた情熱だった。この記事は、私の体験と重ねて思ったことが中心の感想。美術の専門知識がなくても、感動や心の動きは伝わると思った。

※ネタバレなし

あらすじ

MoMAのキュレーターテイム・ブラウンと、元研究者の織絵は、スイスの大邸宅に招かれた。

そこで見たのは、巨匠ルソーの「夢」に酷似した絵。タイムリミット7日間で真贋判定した者に、絵を譲るとして謎の古書を読ませる。ルソーとピカソがカンヴァスに込めた思いとは?

作品の特徴

美術史や画家に詳しい人は、胸が熱くなる物語だと思う。

私は、美術も絵画も詳しくない。そのため、主人公たちが古書を読むところまで、3回ほど読むのを断念してしまった。

個人的メモ

いわた書店の選書

名作に宿る情熱を受け継ぐ

最も心を揺さぶられたのは、最後の「真贋判定」の場面だった。

MoMAのキュレーターのティムと元研究者の織絵は、長年の経験を積み、理性で絵を読み解いてきた。ところが、その空気を突き破るように織絵が放った言葉は、あまりにも真っ直ぐだった。

「感動」は理屈で説明できない。名作は、頭ではなく心で見るもの。目にした瞬間に、胸を射抜かれる。それは恋に近い。

私にとっての恋は、フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》だ。

画家のことや絵の構造も詳しく知らない。ただ、その少女に惹かれてならない。

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生きているように見えて、今にも微笑みかけてきそうだ。真っ黒の背景に浮かび上がるブルーと黄色。そして、上品に光る耳飾り。

希望のような、悲しみのようなものも感じて、視線が外せなかった。

初めて見たとき、目を奪ったのは衣装の色彩だったのに、題名は「耳飾り」。その意外さもまた、忘れられない余韻を残した。

理屈を超えたとき、人は芸術に恋をするのかも。

小説の登場人物たちの「作品を守り残したい」という思いにも、胸が熱くなった。

美術に詳しいわけではない私でも、その情熱は理解できる。なぜなら、私自身も古典が大好きだからだ。

枕草子、徒然草、方丈記。千年以上前に綴られた言葉なのに、今を生きる私に響いてくる。

人間関係がうまくいかなくてひとりぼっちだった頃、彼らの言葉に支えられてきた。時代も文化も言葉さえも違うのに、共感できる。

もし誰かが残そうと努めてくれなければ、この出会いはなかった。

専門家じゃない私にできることは、「情熱を語る」こと。

世の中は諸行無常。人も、自分自身も、いなくなる。けれど作品は、誰かが伝えれば生き続けて、受け継がれていく。その営みに、私は大きなロマンを感じる。

仕事として作品を守った人もいるだろう。私のように「好き」という気持ちだけで支えてきた人もいるだろう。

その熱が繋がり今に至っているとしたら、私もまた、その流れの一部になれるかもしれない。

名作に宿る情熱は、私たちの心を燃やし続けているのだと思う。

心に残った言葉

この作品には、情熱がある。画家の情熱のすべてが。

この瞬間こそが永遠なのだ 

さいご

美術のことは一切分からなかったけど、「情熱」部分は通じるものがあった。どんなジャンルであっても、好きな作品がある人なら、この熱を感じ取れるはず。

私はこの小説を読み終えて、NYのMoMAにあるルソーの《夢》を実際に見に行く目標ができた。

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